―― 低コスト・短期間で理想の店舗を実現する、新しい開業スタイル

新しいお店を始めたいと思っても、「資金が足りない」「開業準備に時間がかかる」といった悩みはつきものです。そんな中、注目を集めているのが既存店舗を引き継いで開業する「まるっと居抜き」。店舗の資産や顧客、運営ノウハウをそのまま活用できるこの方法は、リスクを抑えつつスピーディーに開業できる現実的な選択肢です。
今回は、前回紹介したメリット・デメリットを踏まえ、実際の事例と成功のポイントを解説します。

■まるっと居抜きが切り開く「賢い開業」の新時代

近年、店舗を“ゼロから作る”のではなく、既存店を引き継いで開業する「まるっと居抜き」が注目を集めています。前回は、その大きなメリットとデメリットを整理しましたが、今回は実際にこの手法で成功した事例と、そこから見えてくる「失敗しないためのポイント」を解説します。

■コストを抑え、スピーディーに開業できる仕組み

通常の新規開業では、物件取得から内装、設備投資、スタッフ採用まで多額の費用が発生します。飲食店の場合、開業資金は1,500〜2,000万円が一般的。しかしまるっと居抜きでは、既存の店舗設備をそのまま活用できるため、500〜1,000万円程度で開業可能というケースも少なくありません。

また、開業までのスピードも大きな利点です。ゼロからの準備では半年から1年以上かかるところ、まるっと居抜きなら1〜3か月でオープンできることもあります。立地や設備の確認、引き継ぎ契約をスムーズに行うだけで、短期間で営業開始が可能になるのです。

■前オーナーの「資産と信用」を引き継ぐ強み

まるっと居抜きのもう一つの魅力は、店舗そのものだけでなく「これまで築かれた信頼や顧客基盤」も受け継げる点にあります。
例えば、地元で長年愛されたカフェや美容室などでは、常連客がそのまま新オーナーを応援してくれることが多く、開業直後から一定の売上が見込めるのです。

実際、文京区で古本店「元気堂」を引き継いだ事例では、もともと地域に根ざした店舗であったため、前オーナーの常連客がそのまま来店を続けました。
新オーナーは店名と雰囲気を残しつつ、品揃えやイベント企画を少しずつ刷新。結果、引き継ぎ後も安定した経営を実現しました。

■成功の鍵は「引き継ぎ後の再構築力」

まるっと居抜きの最大の落とし穴は、「そのまま運営すればうまくいく」と思い込むことです。前オーナーのやり方を踏襲するだけでは、時代や顧客ニーズの変化に対応できません。成功している事例の多くは、「ベースを活かしながら自分の色を加える」姿勢を持っています。

例えば、飲食業であればメニュー構成や内装のテイストを少し変えたり、SNSでの情報発信を強化するなど、現代的なマーケティングを導入することが重要です。「元気堂」のように、既存顧客を大切にしつつ新しい層を呼び込む工夫こそ、持続的な経営のカギとなります。

■「安く買う」より「良い条件で引き継ぐ」発想を

まるっと居抜きでは、買い手側が「できるだけ安く譲ってもらいたい」と考えがちですが、重要なのは価格だけではありません。立地や設備の状態、従業員の引き継ぎ条件、地域での評判などを総合的に判断し、“再生できる可能性のある店舗”を選ぶことが成功への第一歩です。

また、前オーナーとの関係構築も極めて重要です。誠実なコミュニケーションを重ね、引き継ぎ期間中に運営ノウハウを丁寧に学ぶことで、トラブルを防ぎ、信頼を維持できます。

■成功事例に見る「まるっと居抜き型起業」の可能性

まるっと居抜きは、単なる「中古店舗の再利用」ではなく、地域と人をつなぐ“再生型起業”の形でもあります。たとえば、定年後に長年の夢だった喫茶店を引き継いだシニアや、副業として空き店舗を活用したサラリーマンなど、低リスクで「自分の店を持つ」夢を実現できる手段として広がっています。

店舗を「作る時代」から「引き継ぐ時代」へ。少子高齢化や後継者不足という社会的課題の中で、まるっと居抜きは単なるビジネスモデルを超え、地域経済の循環を生み出す新しい仕組みとして期待されています。

■まとめ──引き継ぎは「第二の創業」

まるっと居抜きでの開業は、決して“楽な近道”ではありません。しかし、既存の資産や信用を活かしながら、自分の理想の店舗を再構築できるという点で、非常に実践的で現実的な開業スタイルです。

重要なのは、「引き継いだ店をどう磨き直すか」という発想。自分らしい経営スタイルを重ねることで、そこに新たな価値が生まれます。まるっと居抜きは、単なる譲渡ではなく、“次の世代が未来を紡ぐ”ためのバトンリレーなのです。

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