かつて「M&A」と聞くと、大企業同士の吸収合併や買収を思い浮かべる方が多かったと思います。しかし近年では、中小企業や個人事業主の間でもこの言葉が身近なものになっています。
その背景には、事業承継の問題や開業コストの高騰、そして「働き方の多様化」という社会的な変化があります。
■ 店舗を安く買えて、開業準備期間が短い
個人がゼロから事業を始めるには、資金も時間もかかります。たとえば飲食店を開業する場合、物件探しから内装工事、設備投資、スタッフの採用まで多くの準備が必要になります。
それに対して、既存の店舗を買い取る形でM&Aを行えば、すでに営業実績のある店舗を引き継ぐことができます。そのため開業準備にかかる期間を大幅に短縮でき、設備や仕入れルートもそのまま活用できるため、初期投資を抑えることができます。
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■ 閉店後の生活費がたりない問題
一方で、売り手にとってもM&Aは大きなメリットがあります。
飲食店を長年経営してきた人の多くは、年金だけでは生活が成り立たないという現実を抱えています。そのため、体に不調を感じながらも「やめたくてもやめられない」状況に置かれている方が少なくありません。
仮にお店を閉めて居抜きで譲渡したとしても、古くなった設備や内装だけでは高い価格での売却は難しく、わずかな資金しか残らないことがほとんどです。
しかし、店の価値は“ハコ”だけではありません。長年培ってきたレシピや店名、接客ノウハウ、仕入れルートなどの「知的資産」を含めて譲渡することで、その店の本当の価値を評価してもらえるようになります。こうした形での「居抜き+ノウハウ譲渡」によって、譲渡金額を大きく引き上げることができ、結果として退職金のようなまとまった資金を得ることも可能になります。
これは単なる「店じまい」ではなく、長年の努力と経験を次世代へ引き継ぎながら、自分自身の新しい人生をスタートさせるための“前向きな出口戦略”といえるでしょう。
■ 小規模M&A市場が拡大している理由
では、なぜ今、小さなM&A市場がこれほど拡大しているのでしょうか。その理由の一つは、事業承継ニーズの高まりにあります。経営者の高齢化が進み、後継者不在のまま廃業する企業が増えている中で、「事業を譲る」という考え方がようやく浸透し始めています。
さらに、以前は数千万円単位の取引が中心だったM&Aも、今では数百万円から実施できるようになり、個人でも参加しやすくなりました。加えて、インターネット上で売り手と買い手をつなぐマッチングサイトや専門仲介会社が増えたことで、情報の非対称性が小さくなり、より多くの人が安心して取引できるようになっています。
■ 団塊世代の引退がもたらすチャンス
現在、70代を中心とする団塊世代の経営者が次々とリタイアを迎えています。彼らが築き上げた店舗や企業には、長年の顧客基盤やノウハウが蓄積されています。こうした資産をそのまま活かせることも、小規模なM&Aの魅力の一つです。
また、早期退職後に「第二の人生として自分の店を持ちたい」と考える方にとっても、M&Aは理想的な方法です。既に完成された事業基盤を引き継げるため、リスクを抑えながら経営者としての新しいスタートを切ることができます。
■ サラリーマンやOLにも広がる「店舗オーナー」という夢
最近では、会社員やOLの方が副業として小さな店舗を持つケースも増えています。2006年の会社法改正によって、1人でも株式会社を設立できるようになったことが、この流れを後押ししました。これにより、「会社員を続けながらお店を持つ」という新しい働き方が現実のものとなっています。
たとえば、定年後にカフェを経営するケースや、週末だけ自分の店舗を運営するようなスタイルも増えています。M&Aを活用して既存店舗を引き継げば、開業のハードルを下げ、運営ノウハウを学びながらビジネスを始めることができます。
■ “M&A”がもたらす新しい働き方のかたち
かつては「M&Aは大企業のもの」と考えられていましたが、今では誰もが自分のスキルや情熱を活かして既存事業を引き継ぎ、発展させることができる時代になりました。廃業を防ぎ、雇用を守り、地域経済の活性化にもつながるこの仕組みは、経済活動の枠を超えて社会的なインフラとしての役割を果たし始めています。
これからの時代、独立や開業を夢見る方にとって「M&A」は、もっとも現実的でリスクの少ない選択肢の一つになるでしょう。
成功の鍵は、情熱と誠実さ、そして「引き継ぐ」という覚悟にあります。自分の力で事業を育てたいという思いがある方にとって、M&Aは新たな可能性を切り開く道になるのです。
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